特定社会保険労務士(特定社労士)とは、労働紛争の解決手続きで代理人を務められる社労士のことです。この記事では、通常の社労士との違い、なり方と費用、目指す価値を解説します。
特定社労士とは?通常の社労士との違い
特定社労士は、通常の社労士業務(書類作成・帳簿作成・労務コンサルティング)に加えて、「紛争解決手続代理業務」を行える社労士です。業務の幅が広がる資格であり、社労士の上位資格ではない点に注意しましょう。
制度の背景には、1990年代以降の職場のいじめ、残業代未払い、不当解雇、ハラスメントといった個別労働紛争の増加があります。2005年のADR法制定を受けて2007年に社会保険労務士法が改正され、試験に合格して付記を受けた社労士に紛争解決の代理業務が認められました。
紛争解決手続代理業務(ADR)とは
裁判によらず、公正な第三者が関与して民事上の紛争解決を図る手続きを、裁判外紛争解決手続(ADR)といいます。特定社労士はこの手続きで当事者の代理人になれます。具体的には以下のような業務です。
- 都道府県労働局・労働委員会における個別労働紛争のあっせん手続きの代理
- 男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などにもとづく調停手続きの代理
- 厚生労働大臣指定団体のADRにおける当事者の代理(単独代理は紛争目的価額120万円まで)
手続きには3つの種類があります。「あっせん」は当事者双方の話し合いによる自主的な解決を促すもの、「調停」はあっせんに近いものの解決案の受諾勧告がある点が異なり、「仲裁」は仲裁委員の判断に委ねる方式で、裁判の判決と同様の強制力を持ちます。
特定社労士になるには?4つのステップ
ステップ1:社労士として登録する
前提として、社労士試験の合格だけでなく、社労士としての登録(実務経験2年以上または事務指定講習の修了が必要)を済ませている必要があります。
ステップ2:特別研修を修了する(85,000円・63.5時間)
例年9月〜11月に全国主要都市で実施される特別研修を受講します。中央発信講義30.5時間、グループ研修18時間、ゼミナール15時間の計63.5時間で、受講料は85,000円。一度でも欠席すると修了と認められない厳しい研修のため、事前のスケジュール調整が欠かせません。
内容は憲法・民法・刑法にまで及び、社労士試験では深く扱わなかった労働契約法や社会保険労務士法も含まれます。これまでの知識を実務で活きるものに鍛え直す学習になります。
ステップ3:紛争解決手続代理業務試験に合格する(合格率50〜60%)
研修修了者は、例年11月下旬実施の試験(通称:特定社労士試験)を受験できます。合格発表は例年3月頃です。社労士試験との最大の違いは、全問が記述方式であること。知識に加えて、それを文章化する力や論述の構成力が問われます。
| 特定社労士試験 | 社労士試験 | |
| 受験資格 | 社労士登録+特別研修の修了 | 学歴・実務経験・国家試験合格のいずれか |
| 試験形式 | 記述方式 | マークシート方式 |
| 合格率 | 50〜60%前後 | 5〜6%前後 |
合格率だけ見ると易しそうですが、受験者は全員が社労士試験を突破した有資格者です。その中で約半数が落ちる記述試験であり、決して簡単な資格ではありません。時間内に自分の考えをまとめてアウトプットする練習が必須です。
ステップ4:社労士名簿に付記申請をする
試験合格後、全国社会保険労務士会連合会の社労士名簿に特定社労士としての付記申請を行うことで、正式に特定社労士となります。
特定社労士を目指す価値はある?
「紛争解決の代理業務を扱う予定はないから不要」と考える人もいますが、業務の予定がなくても得られるものは多くあります。
- 紛争を未然に防ぐ力がつく:紛争の知識が深まることで、トラブルの芽を早期に見抜くアドバイスができるようになる
- 法的な論理力が鍛えられる:全問論述の試験と議論中心の研修を通じて、知識を相手に伝える力が磨かれる
- 同じ目標を持つ仲間ができる:グループ研修やゼミで社外の社労士とつながれる機会は貴重で、大きな財産になる
まとめ
📝 特定社労士まとめ
・特定社労士は労働紛争のADRで代理人を務められる社労士
・なるには社労士登録→特別研修(85,000円)→記述試験→付記申請の4ステップ
・合格率は50〜60%だが、受験者は全員社労士。簡単ではない
・代理業務の予定がなくても、紛争予防力と論理力が身につく
特定社労士は、社労士としてもう一歩踏み込んだ専門性を身につけたい人に価値のある資格です。まずは社労士試験の合格を目指し、その次の目標として検討してみてください。
コメント